産業雇用安定助成金|支給要件や2022年からの変更について
投稿日:2022年8月17日
産業雇用安定助成金は、厳しい経営環境が続くなか雇用維持に努力する事業主を支援するために創設された制度です。
今回は、産業雇用安定助成金の概要と支給要件、2022年8月の変更点などについて解説します。
目次
産業雇用安定助成金とは
産業雇用安定助成金とは、新型コロナウイルス感染症により事業の縮小を余儀なくされた事業主が「在籍型出向」で雇用を維持する場合に、その経費の一部を助成する制度です。
2021年2月に創設されたこの助成金は、従業員の雇用維持に取り組みたい「出向元企業」と、出向を受け入れて人材を活用したい「出向先企業」の双方に支給されます。
在籍型出向とは
在籍型出向とは、従業員が出向元と雇用契約を結んだまま、出向先とも雇用契約を結び勤務することを指します。
業務の減少で雇用維持が難しくなった企業が、人手不足で悩んでいる企業に対して従業員を出向させることにより、双方に利益のあるかたちで雇用を守ることができます。
【関連記事】在籍型出向とは?コロナ禍での人材確保、従業員の雇用を守るために
雇用調整助成金との違い
雇用調整助成金とは、雇用調整(休業・教育訓練・出向)をおこなった事業主に支給される助成金です。
同じ出向を対象にした場合は、産業雇用安定助成金と併給することができませんが、休業や別の従業員を対象にした出向などの場合は、両方の助成を受けられるケースもあります。
2つの助成金の具体的な違いは、以下のような点です。
- ・対象事業主について、雇用調整助成金(出向)は出向元事業主のみが助成対象のところ、産業雇用安定助成金は出向先事業主も助成対象となる
- ・助成率について、雇用調整助成金(出向)は助成率が中小企業で最大2/3(大企業は最大1/2)のところ、産業雇用安定助成金は中小企業で最大9/10(大企業は最大4/5)となる
- ・助成対象経費について、雇用調整助成金(出向)は賃金のみが対象となるところ、産業雇用安定助成金は賃金に加えて教育訓練経費などの出向期間中の出向運営に要した経費が対象となるほか、出向開始までに要した経費も助成対象となる
- ・独立性が認められない事業主間でおこなう出向も、産業雇用安定助成金では助成対象となる
【関連記事】雇用調整助成金とは?特例措置が2022年9月まで延長
産業雇用安定助成金の支給要件
産業雇用安定助成金の支給要件は以下のとおりです。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向である
- 出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提としている
- 出向先で別の人を離職させるなど、玉突き出向をおこなっていない
※2021年8月より、独立性が認められない企業間の出向であっても、一定の要件を満たせば助成を受けられるようになりました
支給対象となる出向労働者
産業雇用安定助成金の支給対象となる出向労働者は、出向元において雇用保険の被保険者である必要があります。
ただし、以下のような労働者は支給の対象になりません。
- ・出向計画期間の初回の出向した日の前日時点において、出向元事業主に引き続き被保険者として雇用された期間が6か月未満の労働者
- ・解雇を予告された、退職願を提出した、事業主による退職勧奨に応じた労働者(離職の日の翌日に安定した職業に就くことが明らかな場合を除く)
- ・日雇労働被保険者
- ・併給調整の対象となる他の助成金などの支給対象となっている労働者
【参考】厚生労働省 「産業雇用安定助成金ガイドブック」(外部サイト)
産業雇用安定助成金の対象経費と助成率
産業雇用安定助成金の対象となる経費は、出向労働者に支払われる賃金と関連経費、また出向のための設備や教育訓練に要する費用です。
この経費は賃金支払いに付随する「出向運営経費」と、出向の送り出し・受け入れの準備に伴う「出向初期経費」の2種類に分けられます。
出向運営経費
- ・出向元または出向先が支払う賃金(社会保険料を除く)
- ・出向労働者の労務管理や人事評価に要する経費
- ・出向先事業主が負担した出向先事業所における教育訓練(Off-Jt)に要する経費
出向運営経費の助成率は、中小企業の場合は最大9/10、中小企業以外の場合は最大3/4とされ、上限額は出向元と出向先を合わせて一日あたり12,000円です。
出向初期経費
- ・出向労働者のための什器やOA機器、被服費等の初期経費
- ・職場見学、業務説明会等に要する経費
- ・出向労働者の労働条件、スケジュール調整に要する経費
- ・出向元・出向先の就業規則等の整備・改正に要する経費
- ・出向元・出向先の出向契約書の作成・締結に要する経費
- ・出向元・出向先事業所での教育訓練に要する経費
- ・出向労働者の転居に要する経費(事業主が負担する場合に限る)
- ・上記の他、出向に必要と認められる経費
出向運営経費の助成率は、出向元と出向先を合わせて1人あたり10万円です。さらに一定の条件を満たした飲食サービス業などの場合、1人あたり5万円が加算されます。
【参考】厚生労働省 「「産業雇用安定助成金」のご案内」(外部サイト)
独立性が認められない事業主間で実施される出向への助成【2021年8月より】
独立性が認められない子会社などの事業主間で実施される出向についても、2021年8月1日から助成金の対象となりました。
支給を受けるためには以下の要件を満たす必要があります。
- 資本的・経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められない事業主間で実施される出向
- 新型コロナウイルス感染症の影響による雇用の維持のために、通常の配置転換の一環としておこなわれる出向
- 2021年8月1日以降に新たに開始された出向
助成率は、中小企業の場合は最大2/3、それ以外の企業は最大1/2とされています。上限額は出向元、出向先の合計で一日あたり12,000円です。
【参考】厚生労働省 「制度改正のお知らせ(独立性が認められない事業主間の出向に対する助成)」(外部サイト)
計画届の提出時期の変更について【2022年8月開始】
2022年8月1日より、労働者の出向時期に応じて、計画届を提出できる期間が変更されます。
これは、助成金の支給要件である「事業活動の縮小の程度(出向元事業主)」や「雇用量の減少程度(出向先事業主)」をより適正に判断するための措置です。
計画届の提出は、これまで出向開始日の前日までであればいつでもできましたが、改正後は、次のいずれかに該当するものに限り提出することができます。
- (1)出向開始日が計画届の提出日から起算して3か月以内
- (2)出向終了日が(1)に該当する者のうち、出向開始日の最も遅い者の出向開始日から起算して12か月以内
出向労働者の追加や期間の延長に伴い、出向終了日が審査対象期間の末日を超える変更届を提出する場合は、改めて支給要件の審査をおこないます。
【参考】厚生労働省 「制度改正のお知らせ(計画届の提出時期の変更について)」(外部サイト)
まとめ
コロナ禍により厳しい経営環境に立たされている企業にとって、産業雇用安定助成金は大きな助けとなるでしょう。
過去に雇用調整助成金を受給した事業主であっても、条件を満たせばその支給を受けることができます。
従業員の雇用を守るために、ぜひ活用をご検討ください。
服部社会保険労務士事務所では、上記のような手続きをサポートするサービスをご用意しています。
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